一般社団法人 基礎構造研究会
代表理事 杉村義広
(東北大学名誉教授)
建物の構造設計に携わっている方々は上部構造の骨組みの計算(主として地震力に対する場合が多いですが)には通じているものの基礎・地盤に関しては苦手で、例えば杭基礎を選定した場合には杭業者に丸投げしてしまうケースが多いというのが実態であるのを知って愕然としたことがあります。これは、まず重力の影響を考える必要があるという地球上の原理を忘れているからであり、地盤に精通した設計者を一人でも多く創り出さないと今後が危ぶまれると、常々考えていたところでしたので、2015年1月から故岸田英明博士に引き継ぐ形で当研究会の代表理事をお引き受けした次第です。
建築基礎設計士・同士補試験、とくに設計士試験の方は必ずしも高い合格率とは言えない状況で推移していますが、その理由は、常に地盤と接している部位である基礎構造を設計するには地盤に対するそれ相当の知識と経験を要するために合格条件を高く設定している点にあります。地盤は地形・地質を始め、諸々の環境条件など多様な地域性を示すものなので、基礎構造の設計にはそれらに漏れなく対応する種々の配慮と工夫が求められ、さらに総合的に判断する能力も必要となります。日本建築学会の出版物が上部構造の場合「計算規準」であるのに対して、基礎構造は「設計指針」とされていることにも象徴されているように計算だけでは足りず「設計する」ことが要望されているということで、いわば設計者としての「勘」を磨くことが重要となる訳です。
この観点からすれば、試験で不合格となることは自己研磨の糧を積み重ねていることでもあると理解していただけるのではないでしょうか。なぜならば、ミスを犯したのがもし設計実務上でのことであったなら、設計者としての評価を下げるだけでなく、多大な財政損失をも生じかねなかった筈で、試験であったから不合格となったことの無念さだけで済み、それを適切に修正したものを教訓として今後に活かすならばむしろ大きな功利となると言えるからです。試験の採点も単なる〇×方式ではなく、受験者を支援するという考え方でなされていること、その補足として講習会も別に用意されていることも申し添えます。
このように、試験での不合格は不名誉なことでも何でもなく、むしろ自己啓発の機会になっているという観点に立てば(試験である限り最後には合格するのが理想的ですが)、仮に何回かの失敗を繰り返したとしてもその過程は有意義な経験を積んでいることだと了知していただけるのではないかと思います。
以上の意味でこの試験を利用していただければ幸いと考えておりますので、奮ってチャレンジのほどよろしくお願い申し上げます。
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代表理事が基礎構造に関わるいろいろな問題についてコメントする「いしずえ通信」です。
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